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ゴヴィンド・シンの物語 ─ 農村から未来へ、希望をつなぐオーガニックの力

ヒマーチャル・プラデーシュの静かな丘陵地帯。
澄んだ山の空気が高くそびえる松林を抜けるその地で、ゴヴィンド・シンは暮らしていました。農家の家に生まれ育った彼は、大学で学びながらも、心は常に土と共にありました。

しかし、この高地での農業は決してやさしいものではありません。天候は予測できず、土壌はしばしば痩せており、日々の営みは「生き抜くこと」そのものでした。傾斜地にある小さな畑で伝統的な作物を育て続けても、収穫はわずか。努力しても暮らしは変わらず、夢見た「豊かな農園」は遠い存在になっていました。

転機は2014

諦めかけていた頃、偶然にも「カルティベーターズ(Cultivator’s)」のチームが彼の農地を訪れました。最初は半信半疑でしたが、彼らは単に技術を押し付けるのではなく、ゴヴィンドの悩みや夢、将来のビジョンを真剣に聞いてくれたのです。その姿勢に、彼は久しぶりに「見てもらえた」という希望を感じました。

Cultivator’s が提案したのは、環境に寄り添う有機農法。化学肥料に頼らず、高山の気候に適した「クッキ(Kutki)」や「クス(Kuth)」といった薬草栽培への挑戦でした。自然と共生しながら育てる新しい農業に、ゴヴィンドは未来を託すことにしました。

土が変わり、暮らしが変わる

導きに従い丁寧に育てた薬草は、すぐには成果を出しませんでした。しかし、少しずつ大地は蘇り、強く健やかな植物が育ち始めます。2020年にはカルティベーターズとHAPPRC(中央大学)の支援を受け、「カプールカチリ(Kapoor Kachli)」や「ルバーブ(Rhubarb)」など、さらに希少価値の高い薬草へ栽培を拡大しました。

そして2023──夢が現実に

フェア・フォー・ライフ(Fair for Life)などの認証を取得し、収穫物は高い価格で取引されるようになりました。彼は新しい家を建て、車を購入し、子どもたちに最高の教育を与えられるようになりました。かつて遠い夢だった未来が、今や現実となったのです。

村全体へ広がる希望

ゴヴィンドの成功は、同じように苦しんでいた近隣農家たちにも勇気を与えました。彼らも有機農業に踏み出し、カルティベーターズとつながることで、貧困の循環から抜け出すことができました。

ゴヴィンド・シンの歩みは、信念と粘り強さ、そして正しいパートナーシップの力を証明しています。
どんなに険しい道でも、真摯な努力と支えがあれば、人は困難を乗り越え、未来を変えることができる──彼の物語は、その生きた証です。